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大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)142号 決定

抗告人 藤本重蔵

相手方 玉川光雄こと玉相柄

主文

原決定を取消す。

本件を神戸地方裁判所に差戻す。

理由

抗告代理人は、原決定を取消す、抗告人・前川治作間の神戸地方裁判所昭和二三年(ワ)第四六四号強制執行異議事件につき同二四年一月二一日成立した和解調書につき、相手方玉川光雄こと玉相柄に対して承継執行文を付与することを書記官に命ずる旨の裁判を求め、その理由として主張するところは、別紙抗告理由記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

抗告人申立の要旨は、本件建物は抗告人の所有にかかるところ、昭和二四年一月二一日抗告人・前川治作間に本件建物につき原決定説示の如き内容の裁判上の和解が成立したが、同和解の条項によると、賃借人前川治作が、賃料二ケ月分以上を遅滞したときは、本件建物を抗告人に明渡すべき義務があるのに、昭和二七年一二月一日から二年一一ケ月間に亘り賃料の支払をしないため、抗告人は昭和三〇年一一月右前川に対して強制執行のため執行文の付与を受け執行に着手した。然るところ、前川は執行文付与に対する異議申立又は請求に関する異議の訴等を相ついで提起し、いずれも敗訴(後者は一、二審敗訴、上告中)となるや、昭和三三年九月一八日頃本件建物の二階を、執行妨害の目的をもつて相手方玉川光雄こと玉相柄に賃貸してこれを占有せしめた。従つて相手方は、裁判上の和解により本件建物を明渡すべき義務ある前川より同建物を借受け占有するものであるから、債務者である前川の承継人であると解するのが相当である。右の次第で相手方に対する承継執行文を付与するように求めたく、本件申立に及んだものである、というにあつて、抗告人・前川治作間に、抗告人主張のような裁判上の和解の成立したこと、抗告人・前川間の本件建物の賃貸借契約が、抗告人主張の賃料の遅滞によつてすでに終了していること、右賃貸借契約終了後の昭和三三年九月一八日頃に至り前川が本件係争建物の二階を相手方に賃貸したことは、原決定挙示の証拠により疏明せられ得るところである。果して然らば、前川は本件建物に対する自己の占有を解いてこれを抗告人に移転すべき義務あること明かであり、前川の占有は、いはば右明渡義務を荷なつた占有と解するのを相当とするところ、相手方は前川の一般の承継人でないこと勿論であるが、同人から本件建物の二階を賃借しこれを占有しているもので、すなわち本件係争建物に対する前川の前示明渡義務を荷なつた占有を特定承継したものに外ならないから、民事訴訟法第二〇一条第一項にいわゆる承継人に該当し、抗告人は同法第二〇三条第四九七条の二の規定に基き、抗告人と前川の間における本件和解の執行文付与を相手方に対し請求することを得べきものといわねばならない。(大審昭和五年(ク)三七八号・同年四月二四日民一決定、民集九巻四一五頁参照)然るに原審はこれと異なる見解の下に、神戸地方裁判所書記官が抗告人に相手方に対する本件和解調書の承継執行文の付与を拒否した処分は適法であるとして、抗告人のこれに対する異議申立を棄却したことは失当で、本件抗告は理由があるから民事訴訟法第四一四条第三八六条第三八九条に依り主文の通り決定する。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

抗告の理由

一、別紙目録記載の建物は抗告人の所有にかゝるところ、前掲和解調書により前川治作は賃料二ケ月分以上遅滞したときは、本件家屋を抗告人に明渡すべき義務あり、前川において昭和二七年十二月一日より二年十一ケ月間に亘つて賃料の支払なきため抗告人は昭和三十年十一月前川に対して強制執行のため執行文の付与を受け執手に著手した、然るところ、前川は執行文付与に対する異議、請求異議等相継いで提起し、いずれも敗訴となるや、(後者は一、二審敗訴、上告中)昭和三十三年九月十八日頃本件家屋の二階を、執行妨害の目的を以つて相手方玉川光雄こと玉相柄に賃貸して占有せしめた相手方玉川は裁判上の和解により明渡すべき義務ある前川より建物を借り受け占有するものであるから、承継人であると解するのが相当である

(東京高裁昭二三年(ネ)第五四号同二四年五月二四日決定 最高裁昭和二六年四月一三日判決)

二、右の次第で、承継執行交付与する様相成度本申請に及びます

尚、原決定もとより一個の見解として十分きくべきものあるも、抗告代理人等爾後和解調書、調停作成時「賃料二ケ月分以上延滞した場合、相手方は申立人に対して所有権に基く明渡義務あることを認め即時これを明渡すこと」等作成すべきが相当なるや否や、又原和解調書の如き態様非常に多く、本件の如く、請求異議及びこれに伴う執行停止、更に控訴及び執行停止の如き訴訟の進展をみるとき、債権者側は、その訴訟に勝訴するも占有移転を虞り、反対に原状維持の仮処分をなすべきものなりや否や、等実務処理上重要な問題を含むを以つて、敢えて高等裁判所の見解を求めるものであります

目録

神戸市長田区松野通一丁目十五番地四十七番屋敷

家屋番号 五十四番

一、木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 十四坪二合九勺 二階坪 十坪九合八勺

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